037634 ランダム
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Midnight waltz Cafe 

3rd Dance -第2幕ー

      第2幕      共演の舞台は薔薇色に染まり・・・


成人式の話題が、新聞やテレビで報道される日とは限りなくなった1月16日
その日、真理は朝刊を片手に持って、朝の7時半という時間に登校した。
2人がいることをわかっていてだろうか?真理は走っている。
そして、予想通り涼と雪絵は学校にいた。真理は、着いた途端涼を見るなり新聞を広げ、こう叫ぶ。
「2人とも! これはどういうことなの!?」
朝刊には、「怪盗チェリー、予告状なく盗む。」 そう書かれていた。
「どういうことって言われても、俺がやったわけじゃないから知らねぇよ。」
涼も叫ぶ。
「・・・ニセモノ。間違いないの。」
雪絵は、冷静に答える。
「偽者?」
「そう。私たちはこんなことしないもの。」
「まぁ、あなたたちじゃないならいいわ。私も私のほうで調べてみるから。」
そう言って、真理は教室から出て行く。
「私は私で・・・か。」
涼は天井を見上げた。そして数秒の沈黙のあと何かを思いついたように立ち上がる。
「そうだよ、雪絵。俺には・・・俺たちにはあるじゃなねぇかよ。とっておきが。」
涼の瞳は、輝いていた。
「どういうこと?」
「こういうことだよ・・・・。」
そして涼の話を聞き終えた雪絵は・・・・
「本気なの?」
「ああ。」
「本気でする気なの。」
「もちろん。」涼は自信たっぷりに答える。
「それって危なくない?」
「大丈夫だって、絶対。」
「・・・それなら、いいんだけど。」
「さて、そうと決まったら久々の仕事をやるとするかな。」
気合を入れた涼に・・・
「ねぇ、涼。それだったらいいものがあるよ。」
雪絵は、何かを思いついたようである。



 1月16日、正午
 たぶん日本で前代未聞の事件が起きることとなる。
 なんと衛星放送を除く、地上波のテレビ放送が約17秒間、電波ジャックされたのである。
その電波ジャックの際に流れたのが、この文章であった。

        親愛なるニセ者の怪盗チェリーさんへ
      明日、1月17日の午前零時に、波乗りのための紅の塔で待つ
                                      本物の怪盗チェリー

涼は、ニセ者への挑戦状を提案したのだった。それに電波ジャックという犯罪行為を笑顔で提案したのは雪絵であるが・・・


午後11時。町外れのいつもの教会で、涼と雪絵が話していた。
「ねぇ、涼。予告状を暗号にしてよかったの?」
「そうしないと、邪魔者が入るからな。警察とかマスコミとかには邪魔されたくないからな。」
「でも、ニセモノが分からなかったら?」
雪絵は不安そうに聞く。
「ならいいんだけど・・・」
「さて、行ってくるな。」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
そして、怪盗チェリーは予告状の場所へと飛び立った。


 1月17日、午前零時。
彼は、人を待っていた。
そう、「怪盗チェリー」である自分の偽者を・・・
(もし、来ないなら、それまでか。)
涼が、時計を確認したその時。
空から人が落ちてきた。その人物は、涼と同じ姿をしていた。
「くす。さすがは怪盗チェリーさんね。ものみごとに電波ジャックをするなんて。さすがのわたしも驚いたわ。それにうわさ以上にキザなのね。 電波という『波を伝える紅の塔』、この東都タワーを指定してくるなんて。」
涼が、指定したのは彼女が指摘したとおり、首都である東都にある紅の東都タワーであった。

空から落ちてきた人物は、平然と涼に近付いてくる。
「こんばんは、女性の偽者さん。」
涼は、平然としてそう言った。まるで偽者が現れてくるのが当然であると言わんばかりに。
「こんばんは・・・というより、始めましてかしら?本物さん。」
そう言うと彼女は、マントやシルクハットを投げ捨てた。
そこには、真紅のワンピース姿の女性がいた。
「改めまして、始めまして。私はマリー・ローズ。あなたと同じ怪盗よ。」
マリー・ローズと名乗った彼女は、紅の瞳で彼を見据え、優雅にその黄金の髪を夜風になびかせていた。
まぁ、一般的にすごい美人の部類に入るのだろうか?と、涼は思った。

「マリー・ローズさんですか。一応覚えておきましょう。それで、私の姿を使うとは、何が目的ですか?」
「貴方に逢いたかったのよ。こんなに早く逢えるとは思わなかったけど。」
「私に会って終わりですか?」
「まさか、そんなわけないでしょ。聞きたいことがあるの。」
「・・・何でしょうか?」
「あなた、誘惑の水晶を持ってないかしら? アナミって男が持っていたんだけど。その人死んでしまったでしょ。それから水晶が消えたの。知らないかしら?もし知ってたら私に返してくれない。あの水晶は私の物なの。」
「嫌だと言ったら?」
「あ、やっぱりあなたが持っていたの。」
「え!?」
「だってそうでしょ。知らなきゃ知らないって答えるわよ。でも嫌ってことは、あなたが持っている。そういうことでしょ?」
「もしそうだったら、どうします。」
「もちろん、返してもらうだけよ。」
「ほんとにあなたの物なんですか?」
「半分はね、一応父のものだから。今は・・・」
マリーは、怪しく微笑む。
「そういえば、先ほどからあなたは日本語で話していますが?」
「・・・・」
今度は、マリーが驚いて沈黙する。
「まぁ、あなたが日本語の上手な外国の方か、カラーコンタクトなど使っている日本人か・・・どちらでも構いませんが。 ・・・・・」
「くす、あなたの名前を語るのは止めろってことでしょ?それは安心して。自己紹介は終わったから。」
「自己紹介?」
涼は、驚く。
「そう。いきなりあなたに、マリー・ローズと名乗るより、ずっとインパクトがあるでしょ?」
マリーは、笑顔でそう言う。
「た、確かに・・・」 涼は、あっけにとられた。
「さてと、今宵の邂逅はこれでおしまいよ。あ、正直に答えて。誘惑の水晶はあなたがもっているの?」
「ご想像にお任せしますよ。」
「そう、あなたが持っているのね。そうでなければ虹を見にイギリスまで来ないでしょ?」
「イギリス?」
「監視カメラで見たのよ。あなたのその姿をね。」
「そうですか。あの博物館はあなたたちのものだったのですね。それにしてもよく私とわかりましたね。」
「そんな派手な姿をしていれば、調べればすぐ分かるわ。それに日本だけを調べればよかったし。」
「日本だけ・・・勘が鋭いことで。しかし衣装の方は貴女のほうが目立つと思いますが。」
「いいじゃない。綺麗でしょ?文句があるのかしら? あ、わかった。もっと見たいのね?」
「・・・べ、別に文句はありませんよ。ただ調べがついてるのなら、わざわざ聞きにこなくても、いいのでは?」
「一応ね、念のためよ。」
「用心深いと言うべきでしょうか。・・・確かに誘惑の水晶は私が持っています。しかしあなたに渡す気はありませんよ。」
「渡すのは嫌・・・か。」
「そういうことです。」
「そう、じゃあ仕方ないわね。」
そう言うマリーの手には、拳銃がある。
「ただ言っておきますが、今私は水晶を持っていませんし、隠し場所は私しか知りませんよ。それでも撃ちますか?」
涼は、両手を挙げてそう言った。
「くす、安心していいわ。今は殺さないであげる。でも、これは警告・・・宣戦布告かもね。どんな手を使ってもあなたから誘惑の水晶を奪ってみせるわ。」
悪魔の微笑をみせるマリー。
「できるものなら、どうぞ。」
それに対して、涼は自身タップリに答える。

「そう。じゃあ、ついでだから、誘惑を奪うついでに、あなたも奪ってあげるわ。」
そういってマリーは、涼の首に手を回し、涼にキスをして消えていった。
あとには、薔薇の花吹雪だけが、その薔薇の香りが、キスの余韻を残していた。

   ・・・・・・涼は、呆然と立ち尽くしていた。


  涼は、その『真夜中の出来事』を、雪絵に話さなかった。
 いや、正確に言えば話せなかったのであるが・・・。


 それからの1月は、怪盗チェリーの仕事はあったものの、偽者も現れず、マリー・ローズも現れす、平和な時間が過ぎていった。
 そして、波乱に満ちた2月が訪れるのであった。

 

2月5日 午後10時 ニューセントラルホテル
マリーは、イギリスの父へ国際電話をかけていた。
「東都に、キャロルミュージアムのスペアの物件を見つけましたわ。」
「そうか、では虹を日本へ運ぶとしよう。それよりこちらから運ぶのはにじだけでいいのか?ミュージアムに虹の水晶だけというのは・・・。」
「ご心配なく。他の美術品はこちらで用意しておりますわ。明後日には全ての準備が整うでしょう。」
「そうか、さすがだな。では私も明後日には日本へ迎えるようにしよう。」
「それでは、私は準備がありますので。」
そう言って、マリーは受話器を置く。
「くす。・・・・・・これで、全てのカードがここに揃うわ。」
ひとりマリーは笑っていた。



   2月7日 
虹の水晶は、エドワードとともに日本に到着し、12日のオープンを待つばかりの東都キャロルミュージアム。そこに美術品が運ばれていく。


   そして、2月12日
東都キャロルミュージアムの開館式で、エドワードが報道陣に対して、今晩「虹の水晶」を怪盗チェリーが盗みにくるという予告状が来たことを発表した。
開館式で笑っているエドワード。

そんな、開館式を遠くで見ている、涼と雪絵。


そして、不敵な笑みを浮かべるマリー・ローズでもあるマリア。
「さぁて、舞台は整ったわ。早くいらっしゃい。怪盗チェリー。」



   ・・・こうして、薔薇色に染まった舞台の上で、虹の水晶を巡る、
               最後の舞踏会は、幕を開けたのであった。


            ・・・さて、最後に笑うのは??




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